本記事では令和4年度のBIM/CIM活用業務で求められるリクワイヤメント対応について、リクワイヤメント項目ごとに具体的な事例やソフトを紹介します。

リクワイヤメントに関わるソフトは、事例で実際に使用されているソフトもしくは代用可能なソフトを紹介します。令和4年度のBIM/CIM活用業務に向け、社内環境整備や体制強化等に役立つ情報となっていますのでぜひご活用ください。

第四回は「概算工事費の算出」について解説します。 

図 令和4年度BIM/CIM活用業務のリクワイヤメント7項目 と本記事の項目 

過去の記事は下記からご覧ください。 

リクワイヤメント項目「概算工事費の算出」の内容

令和4年度の変更点

リクワイヤメント項目「概算工事費の算出」に関する令和4年度の変更点 
 「令和5年度以降のBIM/CIM活用に向けた進め⽅」(国土交通省)をもとに作成 

本リクワイヤメント項目の項目名、実施目的(例)、適用ケースともに令和3年度から変更はありません。

項目名

本リクワイヤメント項目の項目名は、概算工事費の算出(工区割りによる分割を考慮)です。 

実施目的(例) 

本リクワイヤメント項目の実施目的(例)は、簡易的なBIM/CIMモデルに概算単価等のコスト情報を紐付けることで、⼯区割り範囲の概算⼯事費を速やかに把握できることを⽬的とする。となっています。

BIM/CIMモデルを活用すれば、概算工事費の算出に必要な各数量を自動算出することができますが、さらに概算単価等のコスト情報を属性情報としてBIM/CIMモデルに付与しておくことで、工区割りを実施した後の工区の概算工事費等を速やかに把握できるようになります。受注者側のメリットとしては、数量算出に費やす労⼒や時間が短縮でき、業務効率化が期待できます。 

適用ケース 

本リクワイヤメント項目の適用ケースは、煩雑な⼯区割り作業が⾒込まれる場合となります。 

概算工事費の算出に係るガイドライン

土木工事数量算出要領(案)

BIM/CIMモデルを活用して数量算出する際に欠かせないガイドラインが「土木工事数量算出要領(案)」です。

「土木工事数量算出要領(案)」は土木工事に係る工事数量の計算等にあたって適用される要領です。BIM/CIMモデルによる数量算出の際は、まずは「第1編 共通編」の「1.2 数量計算方法」や「1.10 BIM/CIMモデルによる数量算出方法」を確認しましょう。

土木工事数量算出要領(案)に対応するBIM/CIMモデル作成の手引き(案)

「土木工事数量算出要領(案)に対応するBIM/CIMモデル作成の手引き(案)」はBIM/CIMモデルを用いて数量算出を行う際の、BIM/CIMモデルの作成方法や数量算出の手順、留意事項等を解説しています。

「土木工事数量算出要領(案)」の「1.10 BIM/CIM モデルによる数量算出」に基づいた内容になってますので、合わせて確認しましょう。

このほか、詳細設計の最終成果物に付与する属性情報は「3次元モデル成果物作成要領(案)」、事業の各段階での活用における属性情報は、BIM/CIM活用ガイドラインの各分野編を参考に属性情報を付与しましょう。 

活用事例

本リクワイヤメント項目の具体例として、 BIM/CIMモデルを活用して年度毎の発生土工数量を算出した事例を紹介します。 

数量の算出にBIM/CIMモデルを活用した事例
出典:「CIM活用事例集(案)」(国土交通省北陸地方整備局)

本事例では、多様な地質・岩級区分が存在する山地掘削箇所の地形モデルや地質・土質モデルを作成しています。

施工ステップ毎の地形モデル(BIM/CIMモデル)を作成することで、年度別の土工数量の算出が容易になったと報告しています。また、地質・土質モデル(BIM/CIMモデル)を活用することで、地質毎の土砂の活用用途の検討や数量算出が容易になったことをメリットとして挙げています。 

代表的なソフトと留意事項

代表的なソフト一覧

本リクワイヤメント項目で使用できる、代表的なBIM/CIM対応ソフトは次のとおりです。

概算工事費の算出に使用する基本的な数量等は、BIM/CIMモデルを作成するソフトで算出できますので、基本的には、使用ソフトは構築するBIM/CIMモデルの種類によります。 

本リクワイヤメント項目に関わる代表的なBIM/CIM対応ソフトの目的別比較表 

留意事項:各ソフトでの土構造物の算出方法を確認

 「土木工事数量算出要領(案)」の「1.10 BIM/CIMモデルによる数量算出方法」では、土構造物の算出方法について、3次元CADソフトを用いた下記a)~d)のいずれかの方式により算出することと定めています。

3次元CADソフトを用いた土構造物の算出方法
a) 点高法
b) TIN分割を用いて求積する方法
c) プリズモイダル法 
d) その他算出結果について結果を確認できるもの
 

BIM/CIM対応ソフトによって、自動算出機能で対応している数量計算方法は異なりますから、自社で使用するソフトがどの算出方法に対応しているか確認しましょう。 

福井コンピュータ社の「TREND-POINT」のメッシュ土量計算機能では、「a:点高法」と「c:プリズモイダル法」の2つに対応し、川田テクノシステム社の「V-nasClair」は「a:点高法」による土量計算に対応しています。

オートデスク社の「Civil 3D」では「c:プリズモイダル法」 の値として利用可能ということですが、国総研の資料で定義されている「プリズモイダル法」 とは異なる計算方法となっています。詳細についてはAUTODESK Knowledge Networkウェブサイトの該当ページ「Civil 3Dで行われる土量計算は、土木工事数量算出要領で示されている計算方法のどれに対応していますか」から詳細を確認しておきましょう。

代表的なソフトを使用した類似事例 

Autodesk社のBIM/CIM対応ソフトと類似事例

Autodesk社の製品を使って概算工事費の算出を行う場合、使用ソフトは設計対象物によって異なります。橋梁などの構造物モデルから数量算出するなら「Revit」、道路や河川などの線形モデルから土量算出等を行う場合は「Civil 3D」を使用することになるでしょう。 

本リクワイヤメントに関わり「Civil 3D」が使用された事例は「BIM/CIM活用事例集Ver.2」(国土交通省)に収録されている、「CASE 13 盛⼟及び⼟軟硬別の掘削⼟量の⾃動算出【道路】」があります。

概算工事費の算出にCivil 3Dを使用した事例
出典:「BIM/CIM事例集ver.2」(国土交通省)

本事例では、盛土や⼟軟硬別の掘削⼟量の算出を効率化するため、BIM/CIMモデルを活用して⼟量の⾃動算出を⾏うだけでなく、自動算出した数量を用いて⼯事費、⼯期を自動で算出しています。 

本事例によると、BIM/CIMモデルを⽤いた⼟量の⾃動算出によって、従来の2次元図⾯を⽤いた平均断⾯法による数量算出に⽐べ、労⼒や時間を短縮でき、業務効率化を図ることができたと報告しています。 

Autodesk社のBIM/CIM対応ソフトを使ったそのほか類似事例

Autodesk社の製品を使ったそのほか類似事例として、「BIM/CIM活用事例集(案)Ver02」(北陸地方整備局)のなかから下記のとおりまとめてご紹介します。 

川田テクノシステムのBIM/CIM対応ソフトと類似事例 

川田テクノシステムが提供する3次元CADシステム「V-nasClair (ヴィーナスクレア)」 は、機能拡張システム「Kitシリーズ」を必要に応じて追加していくことで、構造物モデルから線形モデル、現況地形モデルまで対応可能となります。

例えば、3次元道路構造物モデルの自動生成と数量を算出する「STR_Kit」(V-nasClair のアドオン製品)や、「STR-Kit」で自動作成した3次元モデルから求めた数量を用いて、自動的に工費計算を行う「STR_Kit 工費計算プラス」(STR_Kitの機能拡張ツール)などがあります。 

本リクワイヤメントに関わり「V-nasClair」が使用された事例は「BIM/CIM活用事例集(案)Ver02」(北陸地方整備局)に収録されている、「事例⑰【河川】土工数量検証」があります。

概算工事費の算出に V-nasClairを活用した事例
出典:「BIM/CIM活用事例集(案) Ver02」(国土交通省北陸地方整備局)

本事例では「V-nasClair」で作成したBIM/CIMモデルを活用して、同ソフトの土量算出機能によるメッシュ法(点高法)と従来の平均断面法による土量差を検証したり、メッシュ精度による算出土量差について検証しています。

「V-nasClair」を用いた3次元CADによるメッシュ法は、従来の平均断面法と比べて土量算出の手間が少なく、かつ算出精度も高いことから、土工数量計算の効率化につながると報告しています。

福井コンピュータのBIM/CIM対応ソフトと類似事例 

福井コンピュータの「TREND-CORE(トレンドコア)」は国産のCIMシステムで、土木施工業向けに開発されたソフトです。

現況と計画モデルからメッシュ法(点高法)による土量計算をしたり、各段階での盛土の土量算出が行えます。同社の3次元点群処理システム「TREND-POINT (トレンドポイント)」ソフトと合わせて使えば、同一箇所の点群データや設計データ(TINデータ)からプリズモイダル法による土量計算も行えるため、実績と計画の土量比較といった出来高管理などにも活用できます。

また、法枠計画支援機能(オプション)を使えば、枠内のBIM/CIMモデルから面積や体積等の数量を自動算出できるほか、枠内工種の設定による材料ごとの数量算出等が行えます。

「TREND-POINT」を活用した事例として、施工段階での事例ではありますが、同社ウェブサイト記事「3次元CADを使わずにドローン(UAV)による空撮から土量計算まで大林組の造成現場を効率化したTREND-POINT」があります。

本事例は、ドローン(UAV)による空撮写真から3次元点群データを作り、「TREND-POINT」で3次元点群データから3次元CADを使わずに3次元土量計算を行っています。

まとめ

本記事では、令和4年度のBIM/CIM活用業務(詳細設計)で求められるリクワイヤメント7項目のうちの「概算工事費の算出」についてその内容をくわしく解説しました。 

BIM/CIMモデルを活用して自動算出した数量情報等を属性情報等として付与すれば、協議した単価等に基づき、概算工事費を効率的に算出することができます。 BIM/CIMモデルを構築する際には、施工順序や工区割り等と連動した数量を自動算出できるように、施工ステップ等に沿ったBIM/CIMモデルを構築しましょう。 

数量算出に係るガイドラインである「土木工事数量算出要領(案)」や「土木工事数量算出要領(案)に対応するBIM/CIMモデル作成の手引き(案)」を参考に留意点をしっかり抑えて、BIM/CIMモデルを構築することが重要です。

リクワイヤメント項目に関する事例と合わせて代表的なソフトも合わせて紹介しましたので、令和4年度BIM/CIM活用業務の受注に向け、社内環境整備や体制強化等にお役立てください。  

参考文献
1)国土交通省「その他:第7回 BIM/CIM推進委員会(令和4年2月21日)」、国土交通省ウェブサイト 
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000091.html
2)国土交通省「BIM/CIM事例集ver.2」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト 
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimsummary.html(2022年4月22日 閲覧) 
3)国土交通省北陸地方整備局「CIM活用事例集(案)」、国土交通省北陸地方整備局ウェブサイト  
http://www.hrr.mlit.go.jp/gijyutu/i_Construction/cim/h2909_cim_jireisyu.pdf(2022年4月22日 閲覧) 
4)国土交通省北陸地方整備局「BIM/CIM活用事例集(案)Ver02」、国土交通省北陸地方整備局ウェブサイト  
http://www.hrr.mlit.go.jp/gijyutu/i_Construction/cim/R0109_BIMCIM_jireisyu_ver02.pdf(2022年4月22日 閲覧) 
5)川田テクノシステム株式会社「3D汎用CAD『V-nasClair』 」、川田テクノシステム株式会社ウェブサイト 
https://www.kts.co.jp/seijyou/v_nasclair/index.html(2022年4月22日 閲覧) 
6)福井コンピュータ株式会社「 BIM/CIMコミュニケーションシステム TREND-CORE(トレンドコア)  」、福井コンピュータ株式会社ウェブサイト
https://const.fukuicompu.co.jp/products/trendcore/index.html(2022年4月22日 閲覧) 
7)福井コンピュータ株式会社「i-Construction|株式会社 大林組|TREND-POINT|CONST-MAG|福井コンピュータ コンストマグ」、福井コンピュータ株式会社ウェブサイト
https://const.fukuicompu.co.jp/constmag/info/54(2022年4月22日 閲覧) 
8)Autodesk Inc.「Civil 3Dで行われる土量計算は、土木工事数量算出要領で示されている計算方法のどれに対応していますか」AUTODESK Knowledge Networkウェブサイト