BIM/CIMに取り組むときに必要不可欠なツールが情報共有システムです。情報共有システムを導入すれば、BIM/CIMモデルで扱う大容量のデータを迅速・効率的に情報共有できます。本記事では、情報共有システムの基本の解説から、BIM/CIM業務におすすめの情報共有システム(ASP)まで紹介します。 

情報共有システムとは 

情報共有システムの基本機能

そもそも建設業界における情報共有システムの定義とは何でしょうか。 

国土交通省の「土木工事等の情報共有システム活用ガイドライン」では、「公共事業において、情報通信技術を活用し、受発注者間等の異なる組織間で情報を交換・共有することによって業務効率化を実現するシステム」と定義されています。 

つまり、自治体等の発注者と受注者といった、複数の組織で情報共有するためのシステムを総じて「情報共有システム」と呼んでいます。 

公共事業では関係者が多く、かつ測量成果や現場状況、設計図面、関係機関協議資料等といった様々な情報を迅速・抜け漏れなく共有する必要がありますから、このような情報共有システムが必要となります。 

また、3次元モデルを活用するBIM/CIMでは扱う情報量が多くなりますから、情報共有システムの重要度はさらに増すでしょう。 

ASPとは? 

このように重要度が増す情報共有システムですが、近年では「ASP(Application Service  Provider)」を利用したシステムが主流です。従来は1台のハード(パソコン等)に1つのソフトをインストールしていましたが、ASPとはソフトをインターネット上に置き、複数のハードからアクセスできるサービス又はその事業者を指します。 

現場等へ外出することが多い建設業界ですから、従来のようにソフトがインストールされた重いPCが無くとも、ASPとタブレット・スマートフォンに加えてインターネット環境さえあれば、外出先でソフトを使うことが可能であり、現場で困った際にもすぐソフトが利用できます。 

なお建設業向けのものを特に「建設ASP」と呼びます。 

建設ASPの基本機能

情報共有システムの基本機能

国土交通省では、建設事業で利用するにあたって、情報共有システムに必要な機能や運用ルールを業務・工事でそれぞれ定めています。令和3年版の改定(業務編はRev1.3、工事編はRev.5.3)では、「オンライン電子納品機能」の要件が追加となりました。国土交通省が定めた情報共有システムの機能要件に基づき、情報共有システムの基本的な機能についてご説明します。 

・「業務履行中における受発注者間の情報共有システム機能要件(Rev.1.3)令和3年3月版」要件編解説編

・「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件(Rev.5.3)令和3年3月版」要件編解説編

日程調整や連絡に関する機能

日程調整や連絡に関する機能については、業務名や工期、テクリス情報等を共有できる「基本情報管理機能」や、日程調整が容易となるよう関係者の予定を一覧表示すること等が可能な「スケジュール管理機能」、関係者間での質問・回答ができる「掲示板機能」が基本的な機能として備わっています。 

工事帳簿の授受に関する機能

工事帳簿の授受に関する機能には、帳簿等の発議資料を登録・取りまとめが可能な「発議書類作成機能」、発議した書類の承認やコメントが容易となる「ワークフロー機能」(事前打合せ機能は除く)、複数業務の書類をツリー構造で整理可能な「書類管理機能」があります。 

電子検査や工事後に保管が必要な書類を出力する機能

電子検査や工事後に保管が必要な書類を出力する機能としては、電子成果品の作成にかかる労力低減のため、「成果品」に格納されたファイルを「電子納品ガイドライン」に従い外部媒体に出力できる「工事書類等入出力・保管支援機能」が備わっています。 

電子納品に関する機能

電子納品に関する機能としては、受注者の電子成果品の作成やアップロード、発注者の承認や保管が容易となる「オンライン電子納品機能」があります。 

このように多くの機能を有する情報共有システムですが、システムの機能要件及び運用ルールは国土交通省が以下のようにガイドラインとして定めています。基本的な機能やルールがまとまっていますから、導入を検討する際に一読することをおすすめします。過去や最新の機能要件(要件編・解説編)の確認は、電子納品に関する要領・基準サイト(国土交通省)をご確認ください。

<機能要件> 

・「業務履行中における受発注者間の情報共有システム機能要件(Rev.1.3)令和3年3月版」要件編解説編

・「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件(Rev.5.3)令和3年3月版」要件編解説編

<運用ルールに関するガイドライン> 

「土木工事等の情報共有システム活用ガイドライン 令和3年3月」 

情報共有システム導入のメリット 

メリットその1:書類提出のための移動時間の削減 

テレワークの普及でメールや大容量ファイル送信サービスにて書類を提出することが多くなったと思いますが、情報共有システムを使えばさらに便利になります。 

なぜかというと、書類の発議・承認・決済処理等をWEB上で完結できる「ワークフロー機能」がシステムに備わっているため、印刷物や移動時間の削減が可能であると共に、書類の提出・確認し忘れを発注者・受注者共に防ぐことができるからです。 

なお建設業向けの情報共有システムでは、ファイルデータの共有だけでなく、情報を共有するための補助ツールとして3次元モデルのビューアやWEB会議等の機能を兼ね備えていることが一般的です。 

メリットその2:大容量ファイルのスムーズな共有 

従来は、多くの場合で公共事業の発注者となる自治体のメールサーバーに容量制限があるため、頻繁に行われる大容量ファイルの送受信に手間と労力がかかっていました。また大容量ファイル送信サービスは大半の場合ダウンロードの有効期限があり、期限が過ぎると再度アップロード・ダウンロードを行う必要がありました。 

建設ASPを利用すれば、サーバー上に大容量ファイルを共有できるため、データの送受信が従来の方法より格段に容易かつ効率的になりますし、ダウンロードし忘れといったことも無くなります。 

セキュリティ面に関しては、十分な安全性を確保している情報共有システムがほとんどですから、安心して利用することが可能です。 

メリットその3:効率的な電子納品データの作成 

受注者は従来、電子納品データを作成する際に書類を全て電子化する必要があり、各自治体で異なる「電子納品ガイドライン」に沿ったデータの整理や修正、またCD-Rの準備や郵送手配等、電子化するための資料準備作業に関わる負担が生じていました。一方発注者は、受領した電子納品データを保管・管理システムへ登録する必要がありました。 

建設ASPを利用した場合、「電子納品ガイドライン」に沿って帳簿等の一部書類の自動作業化が可能であり、受注者の負担は低減されます。また電子納品データも全てシステム上で提出・ダウンロード可能ですから、CD-R等の媒体で郵送・差し戻し・修正する必要が無くなり、発注者・受注者共に利便性が向上します。 

情報共有システムおすすめ4選 

この章では、BIM/CIM業務に情報共有システムを導入したい方向けに、おすすめのシステムやサービスを4つ紹介します。 

これからのBIM/CIM時代では、計画・設計・施工・維持管理のいずれの段階においても、ご紹介する情報共有システムが業務効率化及び品質の向上に寄与します。大容量データを取り扱う機会はこれまでよりも遥かに増加すると共に、関係者間での円滑な情報共有が業務遂行に必須となるためです。 

「KOLC+」/コルク 

情報共有システム紹介(KOLC+)
図 BIM/CIM共有クラウド「KOLC+(コルクプラス)」
出典:株式会社コルクウェブサイト

「KOLC+」(コルクプラス)は、BIM/CIM業務を行う関係者間でのデータ共有が特に容易となるサービスです。というのも、KOLC+はBIM/CIMデータをクラウドで簡単に統合したり、様々な方法で活用・共有できる機能を備える「BIM/CIM共有クラウド」だからです。 

特徴は100MBのストレージを利用可能な無料プランがあり、無料ではじめられる点です。3D等の大容量データではなく、比較的軽いデータの情報共有が主な利用目的であれば、他の情報共有システムよりも安価かつ気軽に始めることができます。 

ただし、オンライン電子納品システムは2021年時点では実装されておりません。オンライン上でP21やSFC等のCADファイル形式が表示できない点も注意が必要です。 

有料プランは、BIM/CIM機能が不要でシンプルな情報共有に使いたい場合は15,000円/月/セット(1セットで1~3案件に対応)のライトプランがおすすめです。 BIM/CIM案件で活用したい場合は、30,000円/月の3Dプランが必要となります。また、 国土交通省の帳簿・決済機能が必要な場合はオプションで追加できる等、求める役割によって機能を拡張することが可能です。 

「KOLC+」(株式会社コルク)
URL: https://kolcx.com/ 

「basepage」/川田テクノシステム 

情報共有システム紹介(basepage)
図 情報共有システム「basepage(ベースページ)」
出典:川田テクノシステム株式会社ウェブサイト

「basepage」は細かな機能やオプションを考えなくとも、ソフトを導入すれば情報共有システムの基本的な性能を全て備えられることがおすすめのポイントです。国土交通省が定めている最新の機能要件にも対応し、必要な機能を網羅しています。 

セキュリティ面では、ティア4と呼ばれる最高レベルの安全性を有していることは他の情報共有システムとの差別化ポイントです。 

機能としては、データの共有やオンライン電子納品、スケジュール管理、WEB会議等の機能が1つのパッケージで使用可能となっており、P21やSFC等のCADファイル形式が表示可能なところも助かります。 

料金は発注者側では約15,000円/月ですが、所属組織や取引先、利用するユーザー数、必要なストレージの容量で価格が変わりますから、導入を検討する際には見積もりを依頼することをおすすめします。 

「basepage」(川田テクノシステム株式会社)
 URL:https://www.kts.co.jp/asp/basepage/index.html

「JACICクラウド」/JACIC 

情報共有システム紹介(JACICクラウド)
図 情報共有システム「JACICクラウド」
出典:一般財団法人日本建設情報総合センター(JACIC)ウェブサイト

「JACICクラウド」は基本的な情報共有サービスに加え、発注者支援の役割を求めている方にとっては特にメリットがある情報共有システムです。 

発注者向けの機能を提供する「公共調達ルーム」と、受注者向けで建設プロセスの基盤となる機能を備える「JACICルーム」の2つのルーム(構成)からなります。 

「公共調達ルーム」では、施工時期の平準化を支援するサービスや発注公告に関係する資料をJACICクラウド上で閲覧できる「コリンズ・テクリス検索システム」サービス等を提供しています。受注者の場合でも、JACICクラウドを活用すれば日程調整や訪問が不要で資料を閲覧することができます。  

受注者向けの「JACICルーム」には、発注者との情報共有を円滑にするファイル共有やWEB会議システム等の基本機能のほか、「専門画面機能」と呼ばれる防災に特化した機能が含まれている点が特徴です。モバイル、360°カメラ等を活用した現場把握確認機能や遠隔臨場機能等、順次提供予定の機能やオプションで追加することが可能な機能もあります。 

セキュリティ面ではティア4の安全性を確保しています。料金は、「JACICルーム」機能だけでしたら基本料金60,000円/月となっています。 

「JACICクラウド」(JACIC(一般財団法人日本建設情報総合センター)
 URL:http://jacicloud.jp/

「CIMPHONY Plus」/福井コンピュータ

情報共有システム紹介(CIMPHONY Plus)
図 土木業界向けクラウドサービス「CIMPHONY Plus(シムフォニープラス)」
出典:福井コンピュータ株式会社ウェブサイト

「CIMPHONY Plus」は、施工段階に関わる技術者にとっては特に導入の価値があるシステムと言えます。 

これまでご紹介した情報共有システムはファイルデータの共有を主な機能としているため、設計・施工・維持管理のどの段階でもまんべんなく活用可能です。一方、「CIMPHONY Plus」は施工業務の生産性向上を実現する多彩な機能を備え、土木工事に特化した情報共有システムといえるからです。 

大きく2種類のプランが用意されており、StandardプランとProfessionalプランがあります。Standardプランでは写真・動画データ、書類、2次元図面が共有可能です。従来の図面や資料を用いて工事進捗状況を共有するだけでしたらStandardプランがおすすめです。 

複数の現場において、3次元モデルや3次元設計データを共有したいなら、Professionalプランが必要です。クラウド上で3次元地図を表現すれば、3次元地図上での工事現場データの共有や、作業位置を指定しての指示や連絡事項の共有が可能となります。さらに、3次元地図上に点群や設計データ、3次元モデルを重ねて表示できるため、工事の進捗に応じて計測や設計等を立体的にシミュレーションすることができます。 

加えて現場計測アプリを別途導入することで、遠隔地からの検査指示と計測結果のリアルタイム共有が可能なため、リモートで立会い検査を行い業務効率化に寄与します。 

料金プランは、Standardプラン(年間契約のみ)、Professionalプラン(年間契約、月契約)でそれぞれストレージの容量や現場数に応じて多数用意されていますから、使用目的に応じて選択することが可能です。 

「CIMPHONY Plus」 福井コンピュータ株式会社)
 URL:https://const.fukuicompu.co.jp/products/cimphonyplus/index.html 

情報共有システムはBIM/CIM業務の必須ツール

この記事では情報共有システムの概要や、代表的なサービスについてご紹介しました。情報共有システムと言っても、単なるファイル共有の機能だけではなく、3DビューアやWEB会議システム等、円滑なコミュニケーションを促す様々な付加機能があります。

各サービスによって機能が異なりますから、設計や施工といった段階や金額面、また目的や必要な役割によって適切なサービスを選択することが重要です。 

国土交通省は2023年度までに、基本的には全ての業務でBIM/CIMを原則化することに決定しました。設計でも施工でも、BIM/CIM業務で扱う情報量は膨大ですから、情報共有システムの導入を準備しておきましょう。 

参考文献  

1)国土交通省(2021)「受発注者間の情報共有システム関連資料」、国土交通省ウェブサイト
  https://www.cals-ed.go.jp/jouhoukyouyuu_rev20/ 

2)国土交通省(2021)「土木工事等の情報共有システム活用ガイドライン」、国土交通省ウェブサイト 
  https://www.mlit.go.jp/tec/content/001395719.pdf

3)国土交通省(2021)「情報共有システム提供者における機能要件対応状況関連資料」、国土交通省ウェブサイト
  http://www.cals-ed.go.jp/jouhoukyouyuu_taiou/ 

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