本記事では令和4年度のBIM/CIM活用業務で求められるリクワイヤメント対応について、リクワイヤメント項目ごとに具体的な事例やソフトを紹介します。  

リクワイヤメントに関わるソフトは、事例で実際に使用されているソフトもしくは代用可能なソフトを紹介します。令和4年度のBIM/CIM活用業務に向け、社内環境整備や体制強化等に役立つ情報となってますのでぜひご活用ください。 

第一回は「可視化による設計選択肢への比較評価」について解説します。 

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図 令和4年度BIM/CIM活用業務のリクワイヤメント7項目  

リクワイヤメント項目「可視化による設計選択肢への比較評価」の内容

令和4年度の変更点

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リクワイヤメント項目「可視化による設計選択肢への比較評価」に関する令和4年度の変更点
「令和5年度以降のBIM/CIM活用に向けた進め⽅」(国土交通省) をもとに作成

項目名

令和3年度の本リクワイヤメント項目の名称は設計選択肢の調査(配置計画案の比較等)でした。令和4年度の変更によって、「見える化」することで選択肢を「比較評価」する点が強調されました。 

実施目的(例)

本リクワイヤメント項目の実施目的(例)は、令和3年度から変更点はありません。

配置計画等の事業計画をBIM/CIMモデルで立体的に「見える化」することで、経済性・構造性・施工性・環境景観性・維持管理の観点で合理的に評価・分析するためと示されています。 

適用ケース 

令和3年度の内容ですと、他のリクワイヤメント項目の適用ケースとの違いが分かりづらく、特に「対外説明」や「複数業務・工事を統合した工程管理及び情報共有」との対応の違いに悩む印象でした。令和4年度は、受注者が適用ケースを想定しやすいよう、より具体的な内容に変更されています。

令和4年度の適用ケースは、下記のとおりです。

ケース1:地形の起伏が大きい等、地形が複雑で2次元図面のみでは合理的な評価等が難しい場合
ケース2:耐震補強設計において、既設構造物との取り合いが複雑で2次元図面のみでは施工性、景観性等の評価が難しい場合

それぞれのケースについて、事例と使用ソフトを確認していきましょう。

ケース1:地形の起伏が大きい等、地形が複雑で2次元図面のみでは合理的な評価等が難しい場合

活用事例

本リクワイヤメント項目のケース1の具体例として、トンネルの坑門工において景観検討のために BIM/CIMモデルを活用した事例を紹介します。

BIM/CIMモデルによって周辺環境や地形が立体的に表現され、比較案の構造性や環境景観性がより視覚的・直感的に把握・検討しやすくなったことが分かります。 

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設計選択肢の比較評価(ケース1)にBIM/CIM活用した事例 
出典:「3.BIM/CIMの利活用の体系(3.4.4 景観検討)」(国土交通省)

代表的なソフトと類似事例

本リクワイヤメント項目のケース1を求められた際に使用できる、代表的なBIM/CIM対応ソフトは次のとおりです。 

本リクワイヤメント項目ケース1で使用される代表的なBIM/CIM対応ソフト

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本リクワイヤメント項目に関わる代表的なBIM/CIM対応ソフトの目的別比較表 

ケース1で必要となるソフトは大きく4種類に分類できます。 

  1. 設計対象となる土木構造物のBIM/CIMモデルを作成するソフト 
  2. 周辺地形を3D地形モデルで作成するソフト
  3. 周辺環境を現況点群データで再現するソフト
  4. 設計BIM/CIMモデルと周辺環境を再現したモデルを統合するソフト

1種類のソフトで複数の機能を活用して対応できる場合もありますし、複数のソフトを必要に応じて組み合わせることで対応する場合もあります。 

Autodesk社のBIM/CIM対応ソフト 

Autodesk社の製品では、BIM/CIMモデル作成ソフトは設計対象物が橋梁などの構造物か道路などの線形かによって異なります。構造物なら「Revit」、道路や河川などの線形モデルなら「Civil 3D」を使用します。 

周辺環境を再現するソフトは、現況地形モデルを作成するなら「Civil 3D」、現況点群で表現する場合は点群データ処理ソフト「ReCap」が選択候補となるでしょう。 

「Revit」や「Civil 3D」で作成したBIM/CIMモデルから統合BIM/CIMモデルを作成する場合、「Navisworks」もしくは「Infraworks」が役に立ちます。 

川田テクノシステムのBIM/CIM対応ソフトと類似事例

川田テクノシステムが提供する3次元CADシステム「V-nasClair (ヴィーナスクレア)」 は、「Kitシリーズ」と呼ばれる機能拡張システムを必要に応じて追加していくことで、構造物モデルから線形モデル、現況地形モデルまで対応可能となります。純国産ソフトで、統合モデル管理に特化したシステムです。 

本リクワイヤメントに類似したケースで「V-nasClair」を活用した事例が同社サイトの記事「阿蘇大橋」復旧業務のCIM事例 ~3Dモデルがつなぐ未来の懸け橋~ 」です。 

同記事によると、橋梁形式の比較検討に「V-nasClair」で作成した3次元モデルを使用したことで、2次元図面では違いが分かりにくかった橋脚位置の土工形状が視覚的に分かりやすくなったと報告しています。 

類似事例:
「「阿蘇大橋」復旧業務のCIM事例 ~3Dモデルがつなぐ未来の懸け橋~ 」
川田テクノシステム株式会社ウェブサイト

福井コンピュータのBIM/CIM対応ソフトと類似事例

福井コンピュータの「TREND-CORE(トレンドコア)」も、 V-nasClairと同じく国産のCIMシステムで、土木施工業向けに開発されたソフトです。 

同社の3次元点群処理システム「TREND-POINT (トレンドポイント)」ソフトを連携すれば、点群データを読み込んで現況3次元モデルとして活用することができます。また、現況点群に3次元モデルを配置して統合BIM/CIMモデルを作成できます。 

ケース1に類似したケースで「TREND-CORE(トレンドコア)」を活用した事例として、記事「急峻かつ複雑な形状の現場でCIMを生かした3D MG が威力を発揮」が参考になるでしょう。 

類似事例:
「急峻かつ複雑な形状の現場でCIMを生かした3D MG が威力を発揮」
福井コンピュータ株式会社ウェブサイト
 

ケース2: 耐震補強設計において、既設構造物との取り合いが複雑で2次元図面のみでは施工性、景観性等の評価が難しい場合 

ケース2の事例として、橋梁の耐震補強設計案件においてBIM/CIMモデルを活用した事例を2つ紹介します。 

活用事例1 

1つめの事例では、桁内に補強用部材を設置する際に補強用部材が搬入可能か判断するため、現況橋梁の桁や設計した補強用部材を3次元モデルで再現しています。 

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設計選択肢の比較評価(ケース2)にBIM/CIM活用した事例その1
「維持管理分野におけるCIM技術活用事例 」(国土交通省関東地方整備局)をもとに作成 

活用事例2

2つめの事例では、橋脚の耐震補強設計において、新設する落橋防止システムなどと既設鉄筋の取り合い確認にBIM/CIMモデルを活用した事例です。 

BIM/CIM活用によって、2次元図面だけでは限界のあった、立体的な干渉チェックが可能となりました。

設計選択肢の比較評価(ケース2)にBIM/CIM活用した事例その2 
出典:「CIM及び情報化施工に関する最新情報について」(国土交通省四国地方整備局)

代表的なソフトと類似事例

ケース2のような案件で使用される、代表的な BIM/CIM対応ソフトとして「Revit」と「 V-nasClair」が挙げられます。 どちらのソフトも、1つめの事例のように2次元図面から簡単に土木構造物の3次元モデルを作成できます。 

Autodesk社のBIM/CIM対応ソフト

Autodesk社のソフトなら、土木構造物のBIM/CIMモデルが作成できるソフト「Revit」が有力候補となります。 

「Navisworks」と連携させれば、「Revit」で作成した構造物のBIM/CIMモデルから統合モデルを作成し、アニメーション化によることも可能です。「Navisworks」には3種類ありますが、上位モデルの「Navisworks Manager」と連携させることで自動で配筋の干渉チェックも行うことが可能となります。 

 川田テクノシステムのBIM/CIM対応ソフト

「V-nasClair」と V-nasClair拡張機能システム「Kitシリーズ」を使えば、既設構造物と新設構造物との取り合い、干渉を視覚的に確認できます。 

ケース2に関連して「V-nasClair」を活用した事例として、耐震補強設計ではありませんがご紹介します。橋梁の詳細設計業務で「V-nasClair」等を用いて既設構造物との取り合いを確認した事例です。

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設計選択肢の比較評価(ケース2)にV-nasClairで作成したBIM/CIMモデルを活用した事例
出典:「BIM/CIM事例集ver.2」(国土交通省)

まとめ

本記事では、令和4年度のBIM/CIM活用業務(詳細設計)で求められるリクワイヤメント7項目のうちのひとつ「可視化による設計選択肢への比較評価」についてその内容をくわしく解説しました。 

リクワイヤメント項目に関する事例を参考にすることで、どのような対応が求められるのか、どのような成果品を作成すればよいか、令和4年度に向けて考え方を整理し、具体的な業務イメージを描くヒントになれば幸いです。

また、代表的なソフトも合わせて紹介しましたので、ぜひ令和4年度のBIM/CIM活用業務の受注に向け、社内環境整備や体制強化等にお役立てください。  

参考文献

1)国土交通省(2021)「BIM/CIM事例集ver.2」、国土交通省BIM/CIMポータルサイト 
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimsummary.html
2)国土交通省四国地方整備局(2014)「CIM及び情報化施工に関する最新情報について」、国土交通省四国地方整備局ウェブサイト  
https://www.skr.mlit.go.jp/kaisai/demae/pdf/141205-1.pdf
3)川田テクノシステム株式会社(2021)「3D汎用CAD『V-nasClair』 」、川田テクノシステム株式会社ウェブサイト 
https://www.kts.co.jp/seijyou/v_nasclair/index.html
4)福井コンピュータ株式会社 (2021)「 BIM/CIMコミュニケーションシステム TREND-CORE(トレンドコア)  」、福井コンピュータ株式会社ウェブサイト
https://const.fukuicompu.co.jp/products/trendcore/index.html
5)船越義臣(2016)「維持管理分野におけるCIM技術活用事例」、国土交通省関東地方整備局ウェブサイト  
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000777951.pdf