令和5年度から、国土交通省は「直轄土木業務・工事におけるBIM/CIM適用に関する実施方針」に基づくBIM/CIMの原則適用を開始しました。この実施方針では、詳細設計・工事において必ず実施する「義務項目」と、より高度な活用を目指す「推奨項目」が定められています。本記事では、それぞれの項目の内容と主な活用例について、実施方針に基づいて解説します。
BIM/CIM原則適用の範囲
令和5年度からのBIM/CIM原則適用では、業務・工事の種類ごとに「義務項目」と「推奨項目」の適用範囲が定められました。国土交通省直轄の土木事業が対象ですが、事業の規模や性質によって適用範囲は異なります。実施方針に基づき、対象範囲について詳しく見ていきましょう。
業務・工事の種類ごとの適用対象
BIM/CIMの適用対象は、業務・工事の種類ごとに義務項目と推奨項目に分かれています。詳細設計と工事では義務項目として実施が必須となり、その他の業務では推奨項目として実施が推奨されています。以下の表は、各業務・工事における適用内容を示したものです。
測量 地質・土質調査 | 概略設計 | 予備設計 | 詳細設計 | 工事 | |
義務項目 | - | - | - | ◎ | ◎ |
推奨項目 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
◎:義務 〇:推奨
対象となる業務・工事は、土木設計業務共通仕様書に基づく設計及び計画業務、土木工事共通仕様書に基づく土木工事(河川工事、海岸工事、砂防工事、ダム工事、道路工事)、そしてこれらに関連する測量業務及び地質・土質調査業務です。
なお、単独の機械設備工事・電気通信設備工事、維持工事、災害復旧工事については、適用対象外となっています。
出典:令和5年度BIM/CIM原則適用について(国土交通省)
BIM/CIM適用における実施要件
BIM/CIM適用では、発注者がそれぞれの業務・工事で活用目的を示し、受注者がその目的に応じてモデルを作成・活用する方法で進めていきます。その中で、義務項目と推奨項目は次のように位置づけられています。
義務項目の活用目的は「視覚化による効果」を中心に、未経験者でも取り組める基本的な内容です。詳細設計・工事において3次元モデルの作成・活用が義務となります。3次元モデルの詳細度の基準は200~300程度で、属性情報(部材の名称、規格、仕様など)は、オブジェクト分類名(道路土構造物や橋梁などの分類名称)のみ入力し、その他は任意とされています。活用目的の達成に必要な最小限の範囲・精度が基本です。
一方、推奨項目の活用目的には「視覚化による効果」だけではなく「3次元モデルによる解析」といった、より高度な内容が含まれます。概略・予備設計から施工まで幅広い段階で活用し、施工条件の厳しい工事や規模の大きな事業において、1項目以上の実施を目指します。目的に応じて、より詳細なモデル作成や高度な属性情報の付与も検討できますが、活用の判断には、モデル作成の手間と得られる効果のバランスへの考慮が必要です。
BIM/CIMの義務項目の内容と主な活用例
BIM/CIMの義務項目は、詳細設計・工事段階で必ず実施が求められる基本的な活用項目です。実施方針で定められた義務項目の中から、4項目について解説します。
出来上がり全体イメージの確認
出来上がりの完成形状を3次元モデルを使用して視覚化し、関係者で全体イメージを共有します。従来の2次元図面では伝えにくかった空間的な関係性も、3次元の完成形で確認できるため、より質の高い設計判断が可能です。
住民説明や関係者協議の場でこのモデルを活用すると、より事業への理解を深めることができるでしょう。また、景観検討に活用することで、周辺環境との調和を検討できるほか、交差道路や遊水地の完成イメージを地図上に出力して確認できます。
特定部の確認(2次元図面の確認補助)
複雑な箇所、すでに建設されている、または設置されている構造物や設備との干渉部分、複数の工種が関連する部分などは、2次元図面では表現が困難です。そのような部分を3次元モデルを用いて視覚化し、関係者の理解を促進したり、2次元図面の精度の向上を図ったりします。
2本以上の線形の交差部分や、立体交差部分での河川を含めた立体的な確認、また埋設物や既設構造物との近接施工における干渉確認などに活用できるでしょう。
施工計画の検討補助
施工計画の検討時に3次元モデルを活用することは、施工手順や安全性の確認に役立ちます。建設機械の配置や施工ヤードの確保など、現場での作業性を事前に検証することで、効率的な施工計画の立案が可能となるのです。
活用例として、橋梁架設計画における建設機械配置の事前確認や、トンネル掘削時の支保工検討などあります。
現場作業員等への説明
現場での作業手順の確認や安全管理事項の説明など、具体的な施工計画の共有を含む現場作業員への説明に詳細設計で作成した3次元モデルを活用します。工事の完成イメージや施工手順を分かりやすく伝えることができ、作業内容の正確な理解と施工品質の確保が期待できるでしょう。
BIM/CIM推奨項目の内容と主な活用例
BIM/CIMの推奨項目は、より高度な活用を目指す発展的な取り組みとして位置づけられています。実施方針で示された推奨項目の中の4つの項目について、その内容と具体的な活用例を紹介します。
視認性の確認
視認性の確認とは、3次元モデル上で歩行者や車両からの視点を再現し、死角の有無や道路標識、信号などの見やすさ、認識のしやすさを確認することです。これにより、安全性や利便性に関わる重要な検討が事前に可能になります。
例えば、道路上の信号や標識などの視認性の確認や、橋脚設置に伴う見通しの変化などの交通安全に関わる事項への活用です。
点検スペース等の確認
維持管理段階での点検や補修作業を想定し、3次元モデル上で作業スペースや動線の確認を行います。これにより、供用後の維持管理作業の実施しやすさを事前に検証できます。
橋梁の検査通路の確認やダムの各種点検ルートの検討、また橋脚柱や梁内の点検動線の確認など、将来の維持管理を見据えた検討が可能です。
重ね合わせによる確認
3次元モデルにいくつかの情報を重ねて表示し、位置関係の整合性や干渉の有無を確認します。重ね合わせによる確認を行うことで設計段階での不整合を早期に発見し、施工時の手戻りを防ぐことができるのです。
構造物と官民境界の位置確認や用地取得状況の確認、また建築限界の確認など、様々な要素を重ね合わせた総合的な検討が可能となります。
鉄筋の干渉チェック
3次元モデル上で鉄筋の配置を詳細に再現し、干渉の有無を確認します。特に、複雑な配筋が必要な箇所での施工性の事前検証に有効です。
橋梁の橋脚とフーチングの配筋確認や、トンネルの坑口部アンカーと支保工の配筋確認、函渠の本体と翼壁の接続部における配筋確認など、構造物の重要部位における入念な事前確認を行うことができます。
BIM/CIM義務項目・推奨項目の実践ポイントまとめ
令和5年度から始まったBIM/CIMの原則適用について、実施方針で定められた義務項目と推奨項目の内容や活用例を解説しました。義務項目は基本的な設計検証の確実な実施を、推奨項目はより高度な活用による付加価値の創出を目指しています。
実践においては、まず義務項目の確実な実施が基本です。その上でプロジェクトの特性に応じて、推奨項目を選択して活用していくことが求められています。推奨項目の活用にあたっては、モデル作成の手間と得られる効果のバランスを見極めることで、より効率的なBIM/CIM活用が実現できます。今後は、維持管理段階でのデータ活用も視野に入れながら、プロジェクトの特性に応じた最適なBIM/CIMの活用を取り入れていくことが求められるでしょう。
参考資料:
国土交通省「BIM/CIM関連基準要領等(令和6年3月)」
国土交通省「令和5年度BIM/CIM原則適用について」
国土交通省「義務項目、推奨項目の一覧 別紙1」