近年、土木分野でのAR(拡張現実)の活用が進んでいます。ARは設計のイメージを直感的に確認できるため、施工ミスの予防やプロジェクトの効率化が期待されているのです。
 
インフラ整備や建設プロジェクトにおいて、ARを活用することで現場での3次元モデル表示が可能になり、設計者や施工者、施主とのコミュニケーションが取りやすいという声もあります。
 
最近では、BIM/CIMと組み合わせることで、より高度なAR技術が導入され始めています。この記事では、土木でARを活用するメリット・活用事例を紹介します。
 

ARとは

AR(拡張現実)とは、現実世界にデジタル情報を重ねる技術です。スマートフォンやタブレット、専用のゴーグルを通じて、現実空間に仮想の画像や情報を表示し、体験をより豊かにするものです。
 
例えば、GoogleマップのARナビは現実の街並みにルート案内を重ねて表示し、視覚的に目的地へ導く機能があります。
 
一昔前まではフィクションの技術とされていたARですが、現在では、さまざまな現場で多くの人々に広く利用される一般的な技術になりつつあるのです。
 

業務でのAR活用事例(東埼玉道路)(九州地方整備局)

ARは視覚的に分かりやすくする効果があり、幅広い応用が可能なため、土木分野でも活用が進められています。
 
工事現場でのARの活用は、建設予定の構造物を現地にリアルタイムで表示することで、設計の確認や修正が簡単になります。また、既存の地下構造物の位置をARで可視化し、掘削作業のリスクを軽減することも可能です。
 
さらに、遠隔での現場指示にもARを活用することで、実際の位置関係を把握しやすくなるなど作業の迅速化やミスの削減が期待されています。実際の業務で活用されている事例をご紹介します。
 

東埼玉道路事業でのAR活用事例

東埼玉道路事業とは、国の直轄事業として行われている地域高規格道路の整備事業です。この事業では、測量の段階からARやBIM/CIMを活用しています。
 

BIM/CIMの活用

BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Management)とは、建設・土木事業における品質向上と生産性向上を目的とした3次元モデルを活用する取り組みです。 国土交通省は2023年度から小規模工事を除く全ての詳細設計・工事で原則適用する方針を打ち出しており、建設業界全体でBIM/CIMの導入が進められています。

出典:道路事業におけるBIM/CIMの取り組み~BIM/CIMを身近に 東埼玉道路の事例~ 
 

各事業部でのARの活用  

外部への説明資料に3次元モデルを活用する場合もあります。走行動画や交差点の画像などに活用することで情報を分かりやすくし、交通管理者や関係自治体、地権者に対する道路構造の説明に使用されています。
 
今後は、橋梁予備設計の段階で3次元モデルを作成することで、ARを使用して現場の確認が可能になります。構造物の存在をより意識できるため、設計上の課題が明確になることが期待されています。

出典:道路事業におけるBIM/CIMの取り組み~BIM/CIMを身近に 東埼玉道路の事例~ 
 

九州地方整備局での活用事例

九州地方整備局は、メタバースを活用したインフラ整備に取り組んでいます。ARは現実世界を拡張する技術であるのに対し、メタバースは3次元の仮想空間内での活動や体験を提供する概念やサービスです。
 

メタバース活用

メタバースとは、仮想空間でアバターを操作し活動できる技術で、今ではゲーム以外にも広がっています。メタバースを構築するために使われるのがゲームエンジンといわれるもので、ゲームだけでなく自動車やスマートフォンの設計、宇宙開発など、さまざまな分野で活用されています。
 
BIM/CIMの普及に伴い、建設業界でもゲームエンジンやAI技術を取り入れることで、業界内外での人材の流動性を高め、業界の価値を向上させる試みが行われているのです。
 

現場における事業への理解を得るための広報ツールとしての活用

熊本県に建設中の立野ダムは、AR技術を用いた統合モデルの活用により、建設現場での事業説明が効果的に行われています。
 
周辺自治体や地元住民の事業に対する理解は、大規模事業を円滑に進めるために欠かせません。事前にしっかりと完成イメージを共有することで、関係者間の認識のズレを防ぐことができます。
 
AR活用の一つとして、立野ダムをマインクラフトで再現しており、その動画がYouTube上に投稿されました。その完成度の高さに注目が集まっています。ゲームエンジンを活用した新しい広報の手法といえるでしょう。

参考サイト:国土交通省 九州地方整備局-youtube-  
 
また、写真や動画ではなく、ARを使用することで、現実の土地に建物のデジタルデータを重ねて表示できるため、完成イメージがつかみやすくなり、完成後の違和感の軽減にも期待されています。
 
立野ダム工事では、場所の特性からPCや大型モニタなどの設置は難しい状況でした。しかし、大掛かりな設備ではなくタブレットでARを活用した3次元モデルを投影し、完成イメージを現地視察参加者に視覚的に伝えました。
 
これにより、視察や説明、広報時に大掛かりな準備を減らし、コストを抑えつつも分かりやすい説明が可能になりました。さらに、QRコードを掲載し、ダムの立体モデルを疑似体験できるよう工夫もされています。

出典:事業監理のための統合モデル活用事例
 

土木でARを活用するメリット

土木分野でのAR活用は、生産性向上の観点からも期待されています。具体的なメリットをご紹介します。
 

AR表示で関係者間の認識のズレを解消

AR表示では、現実の風景にCGを重ねる特性から、3Dモデルが地下に埋もれて見えたり、手前の物体に遮られたりする場合があります。また、現実の位置とズレて見え、実際よりも小さく見える、移動に合わせてモデルが動いて見えるといった課題がありました。
 
しかし、これらの課題を解消するiPad版アプリに追加された機能により、より現実感のあるBIM/CIMモデルのAR表示が可能になりました。
 
実際の位置関係を把握しやすくなることで、施主、設計者、施工者など関係者の間で認識のズレを減らし、スムーズなコミュニケーションの促進が期待できます。
 
出典:3D CAD/BIM/CIMファイルのAR/MRみえる化ソリューション「mixpace」、iPad版に「埋設表現機能」を搭載
 

出張が削減できる

遠隔地で同じモデルを検討できるため、設計の説明や検討、現場での検査のための長距離出張や双方のスケジュール調整を大幅に削減できます。これにより、建設業で頻繁に発生する「無駄な移動」が解消され、労働生産性が向上するでしょう。
 
今後はAR技術とCIMモデルを活用して、バーチャルとリアルの差異を自動でチェックできるシステムなど、さらなる発展が期待されています。
 
参考サイト:建設ITワールド
 

まとめ

本記事では、土木でARを活用するメリット、実際の活用事例を紹介しました。他の地域で取り組みを進めるうえで、参考になるものもあるのではないでしょうか。
 
土木分野でのAR活用は、作業の効率化、安全性の向上、コスト削減、そして業界全体の生産性向上に大きく貢献すると期待されています。他の地域での活用事例についても随時ご紹介していきます。