ARの活用範囲は、施工前の合意形成や出来形・品質確認にとどまりません。工程管理や安全性の向上、教育・訓練の現場にまで広がり、多面的な効果を発揮しています。ここでは、主な活用分野とその効果をご紹介します。
施工前の合意形成
ARで完成形を現地に投影することで、景観や安全動線をその場で確認できます。地域住民の方への説明や協議がスムーズになり、合意形成の時間短縮に高い効果を発揮します。
出来形・品質確認
出来形の誤差をヒートマップとしてARで投影し、盛土や舗装など現場の進捗状況を把握できます。従来の目視や採寸の不可が減り、どの箇所が設計より高い/低いといった情報の即時確認が可能です。したがって、手戻りの削減と変更協議の合理化が可能となります。
工程管理と安全性
施工ステップや重機配置を重畳表示することで干渉や安全リスクを事前に検出可能です。4Dシミュレーションとして計画の妥当性を検証でき、施工計画の精度向上と安全管理の徹底に直結します。
教育・訓練
研修の場では、施工不良の事例をARで再現するなどし、安全教育や危険感受性の向上に活用されています。一例として、堤防点検を模擬的に体験させる取り組みも報告されており、若手技術者の実務理解を深める効果が確認されています。
さらに展示施設や広報活動にも展開されており、教育と研修の両面で普及が進行中です。
日本の成功事例
国内でもさまざまな現場でARの活用が進んでおり、施工精度の向上や合意形成の迅速化、教育や広報活動など幅広い分野で成果が確認されています。ここでは代表的な5つの事例を取り上げ、それぞれの特徴と効果を紹介します。
宮城県|交差点改良工事(GyroEye Holo TS+)
宮城県の交差点改良工事において、インフォマティクスと千代田測器が開発した「GyroEye Holo TS+」が活用されました。
Microsoft HoloLens 2と自動追尾トータルステーションを連携、220m規模の交差点工事で重畳誤差約5mmを実現し、道路面や側溝などを実寸表示しました。広範囲での位置ズレを補正し、出来形確認の精度と説明の信頼性を高めた事例です。
地域住民の方への説明でも完成後の道路形状を直感的に理解でき、合意形成がスムーズに進みました。さらに、従来は時間を要した設計変更の協議が短縮され、業務効率化にもつながっています。
参照:インフォマティクス「道路拡幅工事の完成検査に MR 技術を活用」
清水建設|Shimz AR Eye
清水建設は、タブレットでBIMデータとライブ映像を重ね合わせる「Shimz AR Eye」を開発しました。18の現場で試験適用され、天井裏の設備配管確認や次工程の可視化に活用されています。改修工事では見えない部分の所在特定が容易になり、手戻りが減少しました。
施工では、タブレット端末で図面を確認しながら作業を進められるため、ミスの低減や施工管理の効率化に寄与しています。さらに、異なる専門工種間での情報共有がスムーズになり、現場全体の連携が強化された点も大きな成果です。
参照:清水建設「Shimz AR Eye 埋設ビュー」
東成瀬村|成瀬ダム DX LABO

秋田県の東成瀬村で建設が進んでいる成瀬ダムでは、PR施設「成瀬ダムDXLABO」にてジオラマARや実寸ARを導入しました。来訪者が完成像を体験的に把握できる仕組みを設けたことで、理解促進が進みました。施工現場と併設する形で情報発信を行い、土木分野の魅力や先端技術を広く伝える取り組みとして注目された事例です。
また、関係者説明や教育的な役割も果たしており、社会的な合意形成や地域への情報発信の観点からも高い効果を上げました(2024年10月末で閉館)。
出典:国土交通省 東北地方整備局 成瀬ダム工事事務所「成瀬ダムDXLABO」
福井コンピュータ|出来形ヒートマップ
福井コンピュータは、出来形誤差を色分けしたAR表示を導入しました。盛土や舗装などの広がりを持つ構造物の検査に活用され、施工精度の差異を即時に把握できます。視覚化によって検査の効率化と精度向上が進み、発注者への説明も容易になりました。
従来は専門的な測定や資料作成に多くの時間がかかりましたが、ARを使うことでデータをその場で示せるようになり、発注者からの信頼性向上にも寄与しています。
参照:福井コンピュータ「出来形管理(ヒートマップ)」
国土交通省中部地方整備局|インフラDXセンター

国土交通省中部地方整備局ではDX推進拠点として「中部インフラDXソーシャルラボ」「中部インフラDXセンター」などがあります。
「中部インフラDXセンター」では、BIM/CIMで作成したモデルをAR/VRに展開しています。遠隔臨場や安全性向上などをテーマに、最新技術を体験できる場を提供しています。研修プログラムを通じて職員や関係者が最新技術を学び、現場実装に向けた普及活動を推進している点が大きな特徴です。
今後は他地域への展開や、研修を通じた人材育成の拡大が見込まれ、土木業界全体のデジタル化促進につながると期待されています。
出典:国土交通省中部地方整備局「インフラ分野のDX推進について」
まとめ
ARは、土木現場における合意形成や検査、教育を支える重要な技術として定着しつつあります。BIM/CIMの普及とともに、設計段階での住民説明や理解促進から、施工段階での確認・検査まで、各工程を支える役割を果たしています。
国内事例からも有効性が確認されており、ARを導入することで土木現場全体のさらなる生産性向上が見込まれるでしょう。
