建設業界では、慢性的な人手不足や高齢化が進んでおり、現場の生産性向上が求められています。その解決策の一つとして注目されているのが「ICT施工」です。ICT(情報通信技術)を活用することで、測量・設計・施工・検査の各工程を効率化し、精度の高い施工が可能になります。
特に、国土交通省が推進する「i-Construction」施策の一環として、ICT施工の導入が進められ、公共工事などで活用が拡大しています。この記事では、ICT施工が適用されている工種や、導入することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。
ICT活用を推進されている工種
ICT施工は、すべての工種で適用されているわけではありません。令和6年(2024年)の時点で、ICT技術の導入が推奨されている工種は以下の通りです。
ICT施工が推進されている工種
国土交通省の方針に基づき、以下の工種ではICT施工が積極的に推奨されています。
工種 | 具体的な作業内容 |
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河川土工 | 河川の掘削・改修、護岸整備 |
海岸土工 | 防波堤や港湾施設の施工 |
砂防土工 | 土砂崩れ防止のための砂防ダム建設 |
道路土工 | 道路の盛土・掘削、造成工事 |
舗装工 | アスファルト・コンクリート舗装の施工 |
付帯道路工 | ガードレールや標識の設置、側溝整備 |
浚渫工 | 河川・港湾の水底掘削(バックホウ浚渫船など) |
法面工 | 斜面の安定化、吹付工や植生工の施工 |
地盤改良工 | 軟弱地盤の強化(セメント系固化材の使用など) |
法覆護岸工 | コンクリートブロックや石張りによる護岸整備 |
排水構造物工 | 雨水排水路や地下排水設備の整備 |
擁壁工 | コンクリート擁壁の設置による土砂崩れ防止 |
構造物工 | 橋梁やトンネル、ダムなどの建設 |
基礎工 | 構造物の基礎工事(杭打ち・地盤改良など) |
これらの工種では、ICT技術を活用することで施工の効率化や精度向上が見込まれます。特に、測量の自動化や施工機械のマシンコントロール(MC)、マシンガイダンス(MG)の導入が進んでいます。
ICT施工が推進されていない工種
一方で、現時点ではICT施工の導入が進んでいない工種もあります。その主な理由として、下記が挙げられます。
- 3次元設計データの作成が困難であること
- 仮設的な工事であり、ICT施工による効率化のメリットが少ないこと
工種 | 理由 |
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足場工 | 仮設資材の組立・解体が主であり、ICT施工の適用が難しい |
大型土のう工 | 一時的な土留めや水防工事に使用されるため、ICT施工の対象外 |
仮囲い設置・撤去工 | 工事現場の安全対策として設置・撤去される仮設工事のため |
配管・配線工 | 電気通信設備の配管・配線工事はICT技術の活用が難しい |
光ケーブル敷設工 | 地中や架空の光ケーブル敷設作業ではICT施工の必要性が低い |
通信線柱設置工 | 電柱や通信設備の設置はICT施工による効率化が難しい |
今後の展望
現在、ICT施工の適用範囲は土木工事を中心に拡大しています。今後は、さらなる技術革新により、適用分野の拡大が期待されています。特に、BIM/CIMの普及が進むことで、設計・施工・維持管理の各プロセスがより統合され、ICT施工の効果が最大化されると考えられます。
例えば、3Dスキャニング技術を活用した施工計画の高度化が進めば、より精密な施工管理が可能になり、施工品質の向上につながります。また、建設DXの推進により、ICT施工と他のデジタル技術(AI、IoT、ロボティクスなど)が連携することで、さらなる生産性向上が見込まれます。
加えて、i-Constructionの取り組みの中で、ICT施工の標準化が進められており、今後はより多くのプロジェクトでICT技術の活用が求められるでしょう。特に、デジタルデータの一元管理や、遠隔操作技術の発展により、これまでICT施工の適用が難しかった工種への導入も検討される可能性があります。
このように、ICT施工は今後さらに進化し、建設業界全体の生産性向上に大きく寄与することが期待されています。
ICT施工をやるメリット①省力化
ICT施工の導入により、測量・施工・管理の各工程において大幅な省力化が可能となります。
測量の効率化
- UAV(ドローン)や3Dレーザースキャナーを活用し、短時間で広範囲の測量が可能。
- 手作業に比べて測量時間を大幅に短縮し、人員の削減にも貢献。
- 取得した測量データはデジタル化され、即時に設計や施工に反映できるため、業務のスピードアップが図れる。
施工の省力化
- マシンガイダンス(MG)・マシンコントロール(MC)技術を活用し、施工の自動化を実現。
- 熟練技術者でなくても高精度な施工が可能となり、作業時間の短縮につながる。
- 3D設計データを活用することで、丁張り作業の削減や、掘削・盛土の精度向上が可能。
管理の省力化
- クラウドを活用したデータ管理により、現場とオフィス間の情報共有がスムーズに。
- リモート監視技術を利用することで、現場の巡回頻度を減らし、管理業務の負担を軽減。
- 施工進捗管理にはセンサーを活用し、リアルタイムでの監視とデータ分析が可能となる。
ICT技術の導入により、これらの省力化が実現し、全体の生産性向上に大きく貢献します。また、従来の手作業を減らすことで、作業者の負担軽減や安全性向上にも寄与します。
ICT施工をやるメリット②技能要件の緩和
ICT施工の導入により、施工の自動化が進み、従来は高度な技能を必要としていた作業の一部が簡素化されつつあります。これにより、以下のようなメリットが期待されます。
熟練技術者への依存度の低減
- マシンガイダンス(MG)やマシンコントロール(MC)を活用し、オペレーターの技量に依存せず精度の高い施工が可能。
- ICT建機の導入により、経験の浅い作業員でも効率的な施工が実現。
効率的な技能習得
- 3D設計データを活用し、視覚的に理解しやすい施工計画の作成が可能。
- ICT技術の利用により、従来の経験則に頼らずデータに基づいた施工判断がしやすくなる。
労働環境の改善
- 遠隔操作技術の発展により、危険な作業環境でもオペレーターの安全を確保。
- 省人化が進むことで、作業員の負担軽減につながる。
ICT施工をやるメリット③施工精度の向上
ICT施工の導入により、設計と施工の精度が向上し、品質の安定化が図られます。これにより、施工後の手直しや修正作業が減少し、コスト削減にもつながります。
高精度な設計・施工の実現
- 3次元設計データを活用し、施工の正確性を向上。
- マシンコントロール(MC)技術を利用し、オペレーターの技量に関わらず精度の高い施工が可能。
品質管理の向上
- ICT技術により、リアルタイムでの施工監視が可能。
- UAV(ドローン)や3Dレーザースキャナーを活用し、出来形管理の精度を向上。
- 施工記録をデジタル管理し、施工履歴の一元化が可能。
施工後の手直しを削減
- 施工精度が向上することで、手戻りや修正作業の発生率が低下。
- 施工のばらつきを減少させ、均一な品質を確保。
- 設計変更が生じた場合でも、デジタルデータを活用することで迅速な対応が可能。
ICT施工の普及により、施工の精度が高まり、全体の品質が向上することで、建設業界の生産性向上に大きく貢献します。
まとめ
本記事では、ICT施工のメリットについて解説しました。ICT技術の活用により、施工の省力化、技能要件の緩和、施工精度の向上といった大きな利点が得られます。特に、測量の自動化や建機のマシンコントロール技術は、作業の効率化と品質向上に貢献します。
また、ICT施工は人材不足の解消にも寄与し、未経験者でも高品質な施工が可能となります。施工のデジタル管理が進むことで、現場管理の負担軽減や、安全性の向上も期待できます。
今後、さらなる技術の発展により、ICT施工の適用範囲はさらに拡大していくでしょう。建設業界の生産性向上と持続可能な発展のために、ICT技術の活用がより一層重要となることは間違いありません。