近年、点群データを公開する都道府県が増えています。点群データとは、空間座標と色情報を持った点の集まりで構成されるデータのことです。
 
今回は、点群データのオープンデータ公開が増えた理由を詳しく解説するとともに、オープンデータを公開している自治体および活用方法について紹介します。
 

点群データのオープンデータ公開が増えた理由

都道府県による点群データのオープンデータ公開が増えている背景には、いくつかの理由があります。ここでは、主な理由とされる「防災・災害対策」と「まちづくり」について、詳しく解説します。
 

防災・災害対策

点群データのオープンデータを公開することは、防災・災害対策に役立ちます。
 
災害が発生した場合、災害の規模や現場の位置、被害状況などを、迅速かつ正確に把握することが大切です。情報を正しく収集することで、適切な救助活動や復旧作業といった災害対応が可能となります。
 
被害状況の最も基本的な確認方法は、現地調査です。実際に現地へ赴き、目視で被害状況を確認する方法です。しかし、把握に時間がかかり対応が遅れることや、二次災害の危険性など、さまざまなリスクが伴います。
 
一方、事前に地形の点群データを取得・整備しておいた場合、災害発生前後のデータを比較することで、被害状況を詳細に把握できます。目視よりもはるかに短時間かつ安全に被害状況の確認が可能です。
 
点群データの活用により、土砂災害や洪水、津波といった災害リスクを、より高精度に評価することもできます。自然災害発生時に想定される危険な場所や避難経路を、事前に確認でき、必要な対策を講じることができれば、被害は最小限に抑えられるでしょう。
 

まちづくり

道路状況や建物の形状などを把握できる点群データは、まちづくりにも活用できることも、点群データのオープンデータ公開が増えた理由といえます。
 
例えば、点群データを用いた都市景観シミュレーションにより、建築物の完成後をイメージでき、景観形成に役立てられます。文化遺産を点群データ化することによって適切な保存ができたり、VRを用いた観光コンテンツの開発ができたりといったことも可能です。
 
点群データは、現実世界の情報を習得し、仮想空間上で再現する「デジタルツイン」の構築にも活用されています。
 
現在、国土交通省が主導で、日本全国の都市デジタルツイン実現プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」が進められています。このプロジェクトの目的は、日本全国の3D都市モデルの整備、活用、オープンデータ化を進め、まちづくりのDXを実現することです。点群データは、デジタル・インフラとして活用されるだけでなく、点群データを基に形状をモデリングし、3D都市モデルのデータ作成でも行われています。
 
デジタルツインの活用により、まちづくりに欠かせない建設・土木分野でのデジタル化も進みます。計画や設計の高度化が図れたり、安全性の向上を実現できたりなど、生産性の向上が期待できるでしょう。
 

オープンデータを公開している自治体と活用事例

オープンデータを公開している自治体は、全国に多数存在します。ここでは、その中でも積極的な取り組みを行っている自治体と、点群データの活用事例を紹介します。
 

静岡県

静岡県では、静岡県ほぼ全域をレーザスキャナなどで測量し、点群データを取得・蓄積・オープンデータ化するプロジェクト「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル しずおか)」を進めています。
 
このプロジェクトの目的は、防災対策やまちづくり、インフラの維持管理など、誰もが安全・安心で快適に暮らせるスマートな社会の形成です。データは「G空間情報センター」から誰でも利用可能なオープンデータとして、無償で公開されています。
 
2021年7月に発生した静岡県熱海市伊豆山地区の土石流災害では、静岡県がオープンデータとして公開していた点群データが活用されました。被災前の点群データと被災後に静岡県で取得した点群データの差分比較することで、崩落した土砂の範囲や土量から、被害規模の迅速な把握ができたのです。今後崩落の可能性がある箇所や土量の推定もでき、救難捜索活動の二次災害防止に役立ちました。
 
2019年度からは「しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト」として、自動運転実証実験が行われており、点群データを用いて作成した高精度3Dマップが活用されています。
 
そのほかにも、測量・設計やICT活用工事、建築物の新設や伐木による景観シミュレーション、森林管理、文化財保護など、さまざまイノベーションが生み出されています。
 
参考サイト:VIRTUAL SHIZUOKA
 

東京都

東京都では、都の全域をデジタルツインで再現し、多岐にわたる課題解決を目指す「デジタルツイン実現プロジェクト」に取り組んでいます。
 
その一環として、2022年度から2か年計画で、点群データをデジタルの共通基盤データとし、小笠原諸島を除いた都内全域のデータの取得・整備を進めています。
 
2023年には、多摩・島しょ地域の点群データをオープンデータとして公開しました。2024年度には、区部の3次元点群データの公開も予定されています。これらのデータは「G空間情報センター」からダウンロードできるほか、「東京都デジタルツイン3Dビューア」からも利用可能です。
 
都市のデータ整備の新たな仕組みとして、都職員が必要に応じて自ら点群データを取得し、​​都市のデータを整備する検証もされています。 都職員によって取得することが期待されているのは、航空レーザー測量などの大規模な測量では取得できない、高架下やトンネル内の欠損箇所、レーザー測量の解像度より小さい公園設備や消火栓といった地物のデータです。これらのデータを大規模な点群データと組み合わせることで、さらなる業務の効率化・高度化も目指しています。
 
東京都は、共有のデジタルツインビジョンを描く自治​体である静岡県と連携しており、「東京都デジタルツイン3Dビューア」では静岡県の点群データも利用できます。
 
参考サイト:東京都デジタルツイン実現プロジェクト
 

和歌山県

和歌山県は、従来から統合型地理情報システムにより庁内に保有する地理情報のオープンデータ化の取り組みを進めてきました。2023年3月からは、航空レーザ測量で得た県域の約65%におよぶ点群データを、オープンデータとして公開しています。
 
その目的は、県民生活の向上や企業活動の活性化、県域、官民の枠を越えた公共データの活用の促進などです。
 
オープンデータとして公開しているデータは以下3つです。

  • オリジナルデータ(建物や樹木など、地物の高さを含む地表面データ)
  • グラウンドデータ(オリジナルデータから、建物や樹木などのデータを取り除いたもの)
  • グリッドデータ(グラウンドデータをもとに容量を小さくしたもの)

 
データ公開と同時に、新機能として点群データを利用した3D Webビューアーの提供も開始しています。点群データが可視化できることに加え、座標や距離、高さ、面積、断面線などの計測も可能です。
 
参考サイト:和歌山県地理情報システム
 

まとめ

本記事では、都道府県別点群データのオープンデータ活用について解説しました。
 
官民データ活用推進基本法により、国および地方公共団体がオープンデータに取り組むことが義務付けられています。点群データをオープンデータとして公開する自治体は今後ますます増えていくでしょう。
 
ただし、いくら点群データのオープンデータ化が進んだとしても、そのデータを活用できなければ意味がありません。点群データの取り扱いには、専門的な知識や技術が必要となる場合もあり、いかに有効利用するかがカギとなります。