国土交通省が令和5年度(2023年度)からBIM/CIMの原則適用を開始したことで、地方自治体でもBIM/CIMの活用が進んでいます。
 
今回は、長野県、東京都、長崎県のBIM/CIM活用事例を紹介し、各県の地域特性に応じた具体的な取り組みと成果、今後の展望について解説します。
 

長野県のBIM/CIM活用事例

長野県では、BIM/CIMに関する知識や技術を共有し、道路の設計や砂防の測量などにBIM/CIMの活用を積極的に進めています。その中心となるのが「信州BIM/CIM推進協議会」です。
 

信州BIM/CIM推進協議会の設立と役割

信州BIM/CIM推進協議会は、令和元年(2019年)に設立されました。この協議会の主な役割は以下の通りです。

  • 「民間企業」「学術機関」「官公庁」が協力して BIM/CIM について学び、知識を共有する
  • 技術力の向上を目指すとともに、若手技術者の育成を図る
  • 地域の守り手である県内建設産業の持続的な発展を促進する

出典:国土交通省中部地方整備局  「信州BIM/CIM推進協議会の取組について
 
発足当時は主に建設コンサルタントを中心に活動を行ってきましたが、令和3年(2021年)に県内の建設業に関わる主要な業界団体が参加したことにより、協議会の活動範囲がより拡大しました。
 

信州BIM/CIM推進協議会の取り組み

参加団体が増えたことで協議会の体制が強化され、活動が活発になった令和3年度からの具体的な取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
 

令和3年度の取り組み

令和3年度は、BIM/CIM活用の体制づくりに注力した1年でした。主な取り組みは以下の通りです。
 
・BIM/CIMモデル事業の推進
県内のBIM/CIMモデル事業の取り組みを推進し、見込みを含む県内の取り組み数が100件を超えました。

出典:国土交通省中部地方整備局  「信州BIM/CIM推進協議会の取組について
 
・実務者会議の開催
BIM/CIMに関する実務者会議(若手部会)をWeb開催し、県担当者との双方向コミュニケーションと実践的な情報共有が、参加者から高く評価されました。
  

令和4年度の取り組み

令和4年度(2022年度)は、BIM/CIM活用の本格化と普及促進に向けた年と言えるでしょう。主な取り組みは以下の通りです。
 
・信州BIM/CIMトークライブの定期開催
2週間に1度オンライン意見交換会を開催し、最新情報の共有と課題解決に向けた討議を行いました。情報共有サービス「basepage」を導入し、トークライブや各会議の動画や資料を共有しています。
 
・専門部会の設置
「測量・設計」「地質」「建設」「データ活用」の4つの部会を設置し、各部会ごとに事例の共有や話題の検証を行いました。
 
・実務者会議の開催
国や県の取り組み状況の共有や事例紹介、意見交換などを軸に議論を行いました。参加者の増加に伴い、今後は知識レベルに応じた内容の工夫が必要とされています。
 
・BIM/CIM活用現場の見学
BIM/CIM活用を試行する現場として、上田市内の「国道 18 号上田バイパス神川橋上部工事」を見学しました。
 
・ BIM/CIM関連ソフトの使用状況アンケート実施
3DCADソフトのデータ形式の違いによる互換性の問題を把握して情報共有すること、ソフト導入時の参考にすることを目的として、BIM/CIM関連ソフトの使用状況のアンケートを実施しました。今後のデータ互換性検証や新規導入の判断材料として活用する予定です。
 
・県職員向けに3DCAD研修の実施
県内のBIM/CIM活用事業の増加に伴い、県職員のBIM/CIMに関する知識向上と3D技術への理解促進のため、3DCAD操作研修を実施しました。
 
・建設ITガイド2023への寄稿 
一般財団法人経済調査会が発行する「建設ITガイド」に協議会の取り組みを寄稿し、長野県のBIM/CIM推進の取り組みの周知につながっています。
 
・資料や記録のアーカイブ化 
協議会の活動の拡大と参加者の増加に伴い、情報共有サービス「basepage」を導入しました。資料や記録(レコーディング動画)をアーカイブ化し、メンバー間で共有できる体制を構築しています。
 

令和5年度の取り組み

令和5年度は、これまでの取り組みをさらに発展させ、BIM/CIMの定着と高度化を目指しました。主な取り組みは以下の通りです。
 
・トークライブでのBIM/CIM事例紹介
県内の発注機関の事例を紹介することで、もともと高かった受注者側の関心に応える形となり、参加者数が約5割増加しました。
 
・協議会の取り組みの周知と情報交換
「建設ITガイド2023」への寄稿を契機に、業界紙の取材や講演依頼などの機会を活用し、BIM/CIMの普及推進に向けた情報発信を強化しました。さらに、他の自治体との意見交換や情報共有を通じて、建設業界全体で意見交換しやすい環境づくりを目指しています。
 

今後の課題と展望

長野県のBIM/CIM推進協議会は、これまで情報共有や意見交換、課題整理、体制構築に取り組んできました。今後はこの構築された体制を最大限に活用し、具体的な課題解決に活かすことが課題とされています。そして、県内の建設業界全体へのBIM/CIM技術の浸透を促進するため、さらなる継続的な取り組みが求められています。
 
参考:国土交通省中部地方整備局  「信州BIM/CIM推進協議会の取組について
 

東京都のBIM/CIM活用事例

東京都では、大規模な都市インフラ整備プロジェクトにおいてBIM/CIMを積極的に活用しています。特に注目されているのが、国道246号渋谷駅周辺整備事業での取り組みです。
 

国道246号地下歩道整備事業におけるBIM/CIM活用

国道246号渋谷駅西口交差点の地下道工事では、地上、地下ともに限られた施工空間でのPPCa(パーシャルプレキャスト)ボックスカルバートの施工において、BIM/CIMやAR・VRを活用して施工管理を実施しています。

出典:BIM/CIMモデルを活用した4D施工シミュレーション検討(国道246号渋谷駅周辺整備事業)
 

BIM/CIMモデルを活用した設計確認

設計図面と現地点群データを用いて、既設構造物や地下仮設物を含む詳細な3Dモデルを作成しました。このモデルを活用して、地下埋設物との干渉チェックや鉄筋配置の照査を行い、さらに隣接する民間建築工事のモデルも統合して接続部の整合性を確認しています。
 
この取り組みにより、地下埋設物と仮設構造物の干渉を事前に発見し施工計画に反映させたり、3Dモデル上で配筋図の照査を行うことで設計段階での不具合を早期に修正したりすることが可能になりました。
 

ARアプリを利用した現場投影

現地でタブレットを通じて3Dモデルを投影し、複数地点での投影や対象物の切り替え、透過機能などを実装しています。
 
この取り組みにより、現場での関係者打ち合わせがより効率的になり、視覚的なイメージ共有が可能になりました。また、視察や見学時にも完成イメージを即座に共有できるようになり、事業に対する理解も深まっています。さらに、地下埋設物の位置を地面に投影する機能を活用することで、工事関係者の安全対策が強化されました。
 

360°ストリートビューの活用

360度カメラを使用して現地の定点写真をストリートビュー形式で撮影・保存する取り組みを実施しています。
 
この結果、工事関係者とのWEB会議で現場の進捗状況を視覚的かつ効果的に共有することが可能になりました。また、関係機関との協議時にこのストリートビューを説明資料に活用することで、現場状況の理解が促進され協議がより円滑に進んでいます。
 

VR×4Dシミュレーションによる施工検討

プレキャスト部材の据付において、3Dモデルに時間軸を加えた4D施工シミュレーションを実施し、ゲームエンジンとVR技術を活用して新工法の詳細な施工検討を行いました。
 
この結果、施工方法の最適化が図られ、部材投入箇所や施工タイムスケジュールの精緻な計画が可能となり、プレキャスト部材の据付日数が40%短縮し、大幅な工程短縮と効率化を実現しています。さらに、重機配置や歩行者・車両の視点から安全性を事前確認することで、現場の安全性も向上しています。
 
参考:関東地方整備局 BIM/CIM活用工事としての取り組み(国道246号 渋谷駅周辺整備事業)
 

長崎県のBIM/CIM活用事例

3次元データを用いた事業説明会の実施とその効果

長崎県では、昭和57年(1982年)7月に発生した長崎大水害を契機として、長崎水害緊急ダム建設事業を開始しました。この事業は、中島川や浦上川などの河川改修と併せて、既存ダムの改築や新設ダムの建設を行うことで、河川とダムを組み合わせた総合的な洪水対策を進めるものです。
 
水道専用ダムである浦上ダムの工事着手に向けて、令和5年2月に地元住民向けの事業説明会が開催されました。この説明会では、複雑なダムの形状や工事の施工方法を住民の方々により分かりやすく伝えるため、3次元モデルを採用しています。
 
3次元モデルを使用することで、プロジェクトの詳細を立体的かつ視覚的に表現することが可能となり、関係者や地域住民に対して従来の2次元の図面や文書による説明よりも分かりやすい形で情報を提供することができました。

出典:長崎県  長崎水害緊急ダム建設事業(浦上ダム)の事業説明会を開催しました
 

まとめ

今回は、長野県、東京都、長崎県におけるBIM/CIMの活用動向について解説しました。各地域の特性や課題に応じた導入が進められ、その効果が現れています。これらの事例は、他の地域が取り組みを進めていくうえで参考となるのではないでしょうか。
 
なお、国土交通省は、BIM/CIMに関する最新の基準や要領、活用事例など、BIM/CIM導入に役立つ情報を「BIM/CIMポータルサイト | 国土交通省」で提供しています。ぜひ確認してみてください。